2017年2月19日日曜日

ミドとピンの工場復興発端物語 3





                         第四章 奇禍術?





「奇禍術? なんだミそれ?」

「奇禍術ってのは、僕たち縫いぐるみ特有の術らしいんだピン。んでもって、何が起こるか分

からないって術なんだピン」
  ・・・
「らしいってなんだミ? 自信がねえってことかミ?」

「そうだと思うってことだピン」

「思う? 思うってどういう  」

「うるせーピン! 黙って聞けピン! ったく、このくそミドは……」

「ま、いいミ。でもそんなわけの分からない術で、その工場の戦乱を食い止めたってことなの

かミ?」

「んん……。まあ、少しだけ違うけど。ま、そういうことだピン。僕が教えてもらったのは、

その下級レベルの術なんだけどな、ピン」

「なんだ、所詮ザコかミ」

「やっかましーピン! おめーにそんなこと言われたくねーピン」

 ピンは再度ミドを踏みつぶした。ミドは倒れながらばたばたともがくが、ピンの足元には及

ばない。

「ふふふ。分かってないようなら体で教えてやるピン。……むむむむ」

 ピンは真剣な表情で何かを唱え始めた。ミドにはピンが何を言っているのか分からなかった

が、とりあえず待ってやった。

「ダイン!」

 大声を出したと同時に、風が止まる。空気の流れが完全に制止し、空を舞う雲も止まってし

まった。

 ミドは何がなんだかわけがわからず、だが、とにかく動けなくなったことは自分でもすぐに

理解できた。

(な、なんだミ  う、うごけねえミ。なんで?)

 考えながらピンを見る。

 広い草原の中で、ピンだけが普通に笑みを浮かばせて行動する。見下すピンを、ミドは頭に

きて仕方がなかった。

(こんのくそピン! いつも俺を下っ端のように見やがって! いつか後悔させてやるミ!)

「分かったかピン? 今回はこんな感じだけど。まあいろいろとあるピン。………はっ!」

 瞬間、また元に戻る。

 雲はゆっくりと流れ始める。ミドもまた、起き上がる。

(あー、まいったミ。ん? ちょっと待てよ?)

「ってことは、俺もその技が使えるのかミ?」

「知らねえピン。おめーじゃたぶん、駄目だなピン」

「な、何?」

 ピンのきつい言動で、ショッキング状態。

「……くそ。まあそれは、我慢してやるミ」

「いや、べつに我慢なんかしなくて、どんどんかかってこいピン。こっちはいっこうに構わね

えピン」

(くそっ。このくそピンのやろー! 生意気な奴極まりねーミ)

 ミドは、やったところで勝機がないことが分かったので、仕方なく立った。

「ところで  」

「ところでじゃねーピン。話逸らすんじゃねーピン。かかってきやがれピン」

「……くっミ」

(くそピン! ちくしょー……)

 ミドは耳をピンと立て、怒声を上げようとしたが、とりあえず今は抑えた。

「で、何が言いたいんだピン?」

「ふう、えと、その、なんだ? ブ……ブネ……、なんだっけ?」

「ブネルーさんだピン。ったく毎回聞きまくりやがって。……まあいいピン。教えてやるから

心して聞けピン」

「こんの……」

(ま、いいミ)

 疲れで喋る気にもならなくなり、ミドは空を見上げた。

 ピンの右手は淡く光っている。先程の術のせいで……、いや、それもあるだろうが、それだ

けではないようだ。

 工場改革の発端、カンドゥの腕輪がピンの腕にはまつわりつくようにかかっている。それの

影響があってのものだろう。

「っとその前に、お前は俺が工場を破壊したことを知ってるミ。でも、なんでそんな正確なと

こまで知ってるんだミ? 例えば俺が焼却炉に液体を  」

「っだから、さっき、それはブネルーさんから聞いたって言ったじゃーかピン! だから奇禍

術の話をしたんだろーが! ったくほっんと頭わりーな。脳みそ入ってんのかピン? あ、縫

いぐるみだから入ってるわけないか」

「そんなことまでよく知ってるな。そのブネルーってやつ」

「猫の話を聞けピン!」

「うげべっ」

 ミドを超後ろ回し蹴りで攻撃! ……ダウン。

 ピンはすっきりし、大きく息を吸った。

「このくそミドが。寝ながら聞いてろピン! 詳しく言うから、質問すんじゃねーぞピン!」



                                    



「隊長! もう駄目です! 味方は僕ら三人しかいないし!」

 森の中、ピンを含む残りの三人は敵側に囲まれた。

 周囲から、じわじわと、笑みの表情で迫ってくる敵に、恐怖を覚えながらその男  アテ

リセはびくついているのであった。

 艶のあった顔の皮膚も今は、血、傷や泥で混同し、相当に汚れてしまっている。美しかった

金髪も、今は見る影もない。

「くっそ! もう終わりなのかピン 」

「……うぅ」

 ピンは乱れた毛を気にせず辺りを見渡した。

 もう既に逃げる道は埋め尽くされ、逃げるのはまず無理だ。かと言って戦ったところで勝て

るような人数ではない。

 ピンたちは途方に暮れた。

(人の言葉で、万事休すってやつかピン……。…… )

 シャンッ

「おわっ 」

 刹那、ピンたち三人だけがその場所から姿を消した。……というか、空間の狭間に飲み込ま

れた、そういった感じだ。

「な、なんだ 」

「やつら、どこ行きやがったんだ 」

「……つうか、消えたぞ!」

 敵側の連中の、ピンたちの近くにいた者たちは、異変に戦く。

「どうした?」

 次いで、後ろから近寄る者に告げ、一応指導者であるクラークにも告げる。

 ザワザワと、森の中が賑やかになっていく。

「どうする、クラーク殿?」

「こう伝えてくれ! 奴らは消えたとはいえ、近くにいるはずだ! 残らず殺せと」

「O・K」



 ゴーゴー

 崖の上から、凄い音を立てながら流れる滝の音……。空が煙りだらけだが美しく見える。

 広大な森の中の端の方で、比較的明るい。人の気配は全くなく、とてもリグとは思えないほ

ど澄んだところだ。

 一般的に景色が素晴らしいと言われているような観光地など、相手ではないと言っても過言

ではないだろう。それほど美しい。

「……  どこだピン 」

「な、なんだ  ……やつら、消えたのか 」

「……い、いや、俺たちが違う場所に来たんだ!」

 三人は驚愕の声を発し、周囲を見渡す。ちょうど滝の下の岩陰にいることが分かる。

 少し歩くとすぐ森があり、その奥の方からたくさんの声が聞こえてくることから、さっきい

た場所からはあまり離れていないことが悟れる。

 だが、信じられない現象に、ピンは絶句したままであった。

「……どうなってるんだ?」

 アテリセと、体中、敵の返り血で一杯のライシャルはぼーっとしている。

 三人は、これからどうすればいいのか何も思いつかず、そのまま時を過ごしていた。



 多少、風が揺れ動き、木々が揺れ始める。

「少し寒いですね、隊長。……けど、これからどうすればいいんでしょう。……ん、なんだ、

あれ?」

 胸を腕でぎゅっと締め付けながら、横になっていたアテリセの視線を釘付けにしたものは、

斜め四五度くらいの角度で、彼から一直線の空に浮かんでいるものであった。

 遠くであったため、具体的に何かは把握することはできなかったが。

「隊長、なんかいますよ! ほらっ! あそこに!」

「どこピン 」

 が、指示する方向には、雲ひとつな青空である。

「いや、遅れてすまない」

「どわぁ 」

「わっ 」

 突然の声に驚いたふたりであったが、シャルは相変わらず平然としている。

 声の主は、ピンのそばにいて、こちらを凝視してくる。

「だ、だれだあんた 」

「何ものだピン?」

 そいつは、全身青い毛に覆われた人間の大人の半分の大きさで、……どうやらピンと同じに

猫のようだ。

 だが雰囲気でいうのなら、ピンとは多少異なっているようで、知的に溢れているのがよく分

かる。

 全身青、全てが青い毛だ。……青い?

 アテリセは多少……どころか相当に疑問が残るものであった。

 非常に珍しい……というか、普通いない。……むろんそれはピンもそうだが。

(……?)

 ピンにはなんとなく分かった。こいつが縫いぐるみだということが。

「えと、自己紹介から始めよう。私の名はブネルー。そのピンと同じような縫いぐるみだ」

「!」

「先程はすまない。驚いたとは思うが、私が転移させてもらったのだ」

「ど、どうやって  あんなこと、普通できるような  」

「まずは、紹介してほしい」

「? まあいいでしょう。僕の名前はアテリセ。元工場の従業員。で、こっちがライシャル。

僕の仲間だ。そしてこちらがピンク色の猫さんで、僕たちの隊長、ピンさん。これでいいのか

な」

「ああ。まあ初めから知ってはいたが」

「……だったら聞くなよ」

 アテリセは多少怒り気味に少し息を荒くしていく。

 ブネルーは再び笑みを浮かべた。

「それで、どうやって僕たちに転移とやらをしたか教えてほしいんだ」

「それはいえん」

「なんでだ?」

「わけあり」

「頼むから教えてほしい。僕もやってみたいんだ」

「駄目♪ カッカッカ」

「……このやろ……」

(………)

 アテリセはブネルーの逆側を向いて、いじけはじめた。

 ピンとシャルは非常に興味があり、その青い猫の縫いぐるみ  ブネルーをじっと見た。

「いろいろと聞きたいことがあるピン。なんで僕の名前を  」

「その前に言いたいことがあるのだ。お前たち三人に……そこまで重大とは言えないが、……

いや、重大とも言えるか。……うむむ、そんなたいしたことでもないぞ? いや、やっぱり大

切だってわけでもない……とも言える。……だがそういったことにはな  」

「だあ! うるさい! 何を言ってるのか全く分からないぞ! それで、結局は何が言いたい

んだ?」

「だから、あまりことを大きくしないでほしい! って、さっきから何度もお願いしているだ

ろう! なぜ猫の話を聞かんのだ!」

「何も聞いてねーよ、馬鹿!」

 普段から温厚のアテリセも、今は怒りを露にしている。どうやらこういった猫が苦手なよう

だ。とりあえず疲れたようで黙ることにした。

 ピンは彼を一旦見て、少しにやけてしまった(意味もなく)。

「それで、お前らで後はなんとかしてくれってことだ。それだけなのだ」

「え? クラークたちのことピンか?」

「そう。そういった名前だったな、あの男は」

「け、けど、せっかく出てこれたんだから、なんとかしてくれるのかな、ってちょっと期待し

てたんだけどピン……。ねえ、アテリセ」

「そうですよ。隊長!」

「そうだよね」



 ブネルーの招待により、ピンたちは大きな滝の裏側へと濡れながらも入ってきた。

 中は洞窟のような構造で、ピンの好奇心を思い切りそそる場所であった。

 ……とはいっても、特に目立ったものはなかった。

 奥には、それなりに住んでいけるようなものがある。具体的に言うと、十分な食糧があって

寒気のために、暖房となるようなものもある。

 天井には電球がついており、光っている。どこから電力が送られてくるのか、理解できなか

ったが、あえてピンは言わないでおくことにした。

「何かの縁だ。とりあえず今は、いろいろと手助けをしてやろう」

「そうか。ありがとう。これから大変だから」

「うん」

「だピン」

「もっと礼を言え。俺の機嫌を取りたいのならな。ハッハッハ」

「………」

 三人はとりあえず黙っていた。

 その後アテリセとシャルはほとんど何も食べていないこともあって、置いてあった食糧を全

て食べ尽くした。

 そのままふたりとも、背中合わせに寝付いた。そのふたりを見ながら、ピンはそのまま立ち

尽くす。

「ピンよ、話がある。いろいろと、重要なことでもある……? いや、そうでもないか。いや、
そういうわけでもないかも分からないが……。だがやはり大したこと  」

「もうそれはいいから。それより話があるんでしょ?」

「ああ、そうだ。ちょっとこっちでその重要で、……いや、実は重要ではないような、そうで

もないよう気もしないでもないような  」

「しつこいピン」

 ブネルーは突き当たりの壁にある隠し扉を開け、地下への階段を降りた。

 ピンも後についていく。

(ん? 地下へ行くってことは、何かくれるのかピン?)

 その期待も悉く打ち破られ、一室にはひとつの古いテーブル、それを挟んで椅子がふたつ。

天井には地上にあったものと同様の電球がある。それだけの部屋であった。

 ブネルーはその椅子に腰を掛け……ると、座高が低すぎて相手側から全くブネルーの顔は見

えなくなってしまった。

 結果、椅子に座って、テーブルの台の下で顔を見合わしているだけであった。

 突如、ブネルーが真剣な表情になって、椅子から飛び降りた。

 ピンは何かと思い、見ていたら、今度はいきなり笑みを浮かべた。

「……今のは、ほんのジョークだ。気にするな」

「………」

(なにがジョークなんだ?)

 結果、テーブルの上にふたりは座って向かい合った。

「それで、重大な話があるって言ったけど、何か忘れちまったから、また今度な」

「へ?」

 意表を突かれた言動に、ピンは思わず絶句した。

 とりあえず、聞く。

「あの、……じゃあ質問してもいいかピン?」

「おう」

 やる気のなさそうな声で、寝ながらブネルーは返事する。

「えと、まずはなんで僕の名前を知っていたんだピン?」

「教えない」

「………」

(五秒前、「おう」って言ったくせに……。なんかずれてるピン。この猫……)

「まあいいから教えてくださいよ。ねえ、ブネルーさん」

 少し戸惑っているようで、ブネルーは静止した。

(おっ? 少し考えてくれてるのかピン?)

 数秒経ったが、まだだ。

(遅すぎるピン)

「ねえ、ブネルーさん。……って、寝てるピーン!」

「あ、ああ。ジョークジョーク。気にするな」

(……するって)

 ピンは疲れて寝っころがった。

「本当に教えてくれピン。クラークの奴らもそろそろ襲ってくるかも分からないし……」

「そうだな。いつまえもふざけてるわけにはいかんか……。じゃあ、真面目に話そう」

 ブネルーはいつになく真剣な表情で口を開く。

「まず、だ。お前の行動だけというわけではないが、主に私はお前を昔から見ている。何故か

? とかそういったことは聞かないでくれ。かなり……でもないが、けっこう前からお前のこ

とをよく知っていて、カンドゥという男に、あの例の薬を渡した」

「え? じゃあ、それって僕にかけた液のことかピン?」

「そうである」

「ブネルーさんからもらったってことだったのか」

「そうだ。誰だってそうだが、初めて私が姿を現した時は驚いていたがな。とりあえず、わけ

は全て置いておいて、カンドゥがお前とミドにあの液をかけた。そのミドが、工場の破壊へと

導いたのは、まだ知らなかったよな?」

「 」

(どこに行ったのかと思ったら、あの野郎、やっぱり!)



 ブネルーはその場の状況を詳しく説明し、大体ピンは飲み込んだ。

「なるほどピン。工場が爆発した時のことは分かったピン。僕の名前知ってるってことも含め

て。でも、なんでさっきは助けてくれたんだピン?」

「それは当たり前だろ。カンドゥに渡したあの液体が無意味になってしまうからな」

「………」

「それとあの転移の術は、……技ではない。術と呼べ。技と呼ぶんじゃねー 」

(……呼んでないって)

「で、あれは私たちにしか使えん」

「え? ……ってことは、僕にも使えるってこと?」

「素質があればの話だが。ちなみにこれからお前に術を教えてやる。喜びまくれ!」

「……?」

「覚える者によっては習得する時間が異なるが、どちらにせよかなりの時は要する。が、それ

さえ覚えれば、あんな奴らにはたやすく勝てるであろう」

「……ほ、本当かピン?」

「ああ」

「……でもその前に、ブネルーさんが倒してくれれば  」

「私には無理なのだ」

「なんで?」

「教えん」

「………」

 仕方なく術のことに専念することにした。

「それと、今言ったことの全て、なるべく他言するな」

「……分かったピン」

「アテリセとやらにもだぞ」

「……うん」

「じゃあさっそく始めるとするか。それでいいか?」

「大ジョブピン」

 ふたりはテーブルから降り、地上へと戻った。

 ……階段の途中、ブネルーが突如後ろを向き、ピンに語る。

「重大な話ってのを思い出した! さっき話した工場のことだった」

「うん、分かってるピン」

「ジョークだジョーク」

(……何が?)

 とりあえず上へと出る。

 扉を開けると、アテリセとシャルが寝ている。

 ブネルーは気付かれぬようピンに注意し、外へと向かった。

「ふたりは?」

「寝せとけ」

 滝を抜け、外に出ると、森の逆側の方向へと行き、岩の陰でブネルーは立ち止まった。

 そして振り返る。

「まず……」

「ゴクッ……」



 キーキーキー

 虫の鳴き声が聞こえる。それと滝の流れる音。それ以外はやけに静かである。滝の外は、既

に暗くなっているようだ。

 そこで静かに目を覚ます。

「……ん? あれ、隊長?」

「すーすー」

 シャルはまだ眠っているようだ。アテリセは辺りを見渡した。

 天井にある異様に明るい電球のおかげで、暗さに困ることは幾分ないが、何か物足りない気

がする。

「……寝てたのか。……夜?」

 彼はそのままゆっくりと立ち上がり、大きく伸びをした。頭を掻いて、欠伸をする。

 いまいち状況が把握できず、しばらくぼーっとしながら考えた。

「……んーと、どうしたんだっけ。えーと、あのブネルーっていう生意気な猫の家で、そこで

ご飯を食べて……あ、なんかそこからの記憶があやふやだ」

「んん? アテリセ?」

「お、シャル。起きたんだ」

 シャルも眠そうにしながら、彼の方へと顔を向けた。

「隊長がいないんだ。あのブネルーとかいう猫も」

「……ふーん」

 興味のなさそうな返事をして、壁側に背中をくっつけて座る。

 アテリセも隣に座った。

 静かな夜だ。あまりにも静かすぎて狂ってしまうほどに。

 上  天井を見上げながらアテリセは口を開いた。

「なあシャル。僕たち、なんでこんな目にあったんだろうな」

「俺にも分からないよ。……でも、ここを乗り越えないと、なんにも始まらない」

「ああ。……関係ないけど、隊長に僕たち、ついてきただろ? それは、まあいいんだ。でも

隊長、なんでまだ工場の改革にこだわるんだろう。べつに他にもいろいろとあると思うんだ。

もう自由なんだしさ」

「さあ。でも俺はそれでもいいと思うよ。隊長の強さ、そして勇気。並大抵のものじゃないよ」
「まあね。だからついてきたんだけど。それに性格いいしな。僕たちに」

「……うん」

 シャルはしばらく黙り込んだ。その様子を見ながら、アテリセは続ける。

「まあ、僕もあの工場で働くのって、うざいなって思ってたから。でもこんなことになるなん

て、思ってもみなかったよな。みんな死んじゃったし。あのクラークの野郎のせいだよ! 絶

対に許さねえ!」

「………」

 いつになく意気込むアテリセに、シャルはおろおろとしていた。

「でもさ、これからどうする? 奴らから逃げられないよ、たぶん。街へは森を通らなくちゃ

いけないし」

「うん。とりあえずピン隊長を待つしかないよ。もう帰ってくるだろうし」

「ま、そうだけどな。隊長、あのブネルーの野郎に騙されなきゃいいけどな」

 ふたりはそのまま、なぜか暖かい洞窟の中で肩を寄せ、眠りについた。

 本当に静かな夜だ。

 外は煙に満ちているが、星が美しく見える。



 ドゴーン!

 翌朝、巨大な爆発音!

「な、なんだ 」

「ん?」

 ふたりは跳び起きた。次いで辺りを見渡す。

 ゴトッゴトッ

 洞窟内が崩れる!

「なんなんだ、いきなり 」

「……?」

 しばらくすると、それは次第におさまった。

「……敵か? ここが見つかったのかも」

「……そうかもしれない」

「でも、でもピン隊長は? あのブネルーってやつは?」

 慌てて滝の外へと歩きはじめた。

 っとその時!

「わっ 」

「どわぁ」

「 」

 いきなり、目の前からピンク色の手に覆われ、アテリセは驚いた。

 が、即座に冷静になって目の前のものを見る。

「隊長じゃないですか! 今までどこに行ってたんです  すでに敵に見つかって攻撃されて

るんですよ!」

「え? もうかピン 」

「さっき爆発音が聞こえたし、ここも少し崩壊してしまいましたよ!」

「あ、それは僕だピン」

「え?」

 ピンの得意げに言う返事に、アテリセとシャルは驚愕した。



「そうなんだピン。ブネルーさんが教えてくれたんだピン」

「なぁるほど。しかし凄い音でしたよ。もの凄い破壊力じゃないっすか」

「もち!」

 ピンは笑顔で応える。

 ふたりは、少し自分たちもやってみたいといった顔でピンの話を聞いた。

「そう」

「?」

 そこへ突如、空からブネルーが現れ、ゆっくりと地へ降下。

「……あんたか」

 アテリセは、あまりブネルーのことを好いていないので後ろを向いた。

「この……、ピン。素晴らしい素質の持ち主だ。たった一晩でこうまで成長するとは……。信

じられない」

「そんなに凄いのか、隊長は?」

「ああ、かなりな」

「えへへピン」

 ふたりは驚きで一杯であった。

(隊長ってやっぱり、レベルの高い猫さんだったんだな)

「……だが、もう少しコントロールをな。下手すると自分まで危険な目に合うから」

「……げっ」

「………」

 ブネルーは笑顔で地につくが、ピンたちは少し焦った顔だ。

 ふとピンが思い出したように言い出す。

「今までごめんピン。けど、これで奴らも倒せるからピン」

「なに?」

「え?」

 再び、ふたりの顔は、驚きで一杯の表情で埋まり出す。

「うん! 心配しなくても大丈夫だってブネルーさんが……ねえ?」

「……んなこた言ってないが」

「え? 言ったじゃないですかピン。教えてくれてる時に」

「いや、気のせいだろ」

「………」

 ピンは立ち止まったままどうすればいいのかを考えながらも分からず、とりあえず黙った。

「けど、そこまで凄いのなら、こりゃ期待できますね」

 アテリセがフォローするつもりで言ったが、本心でもそう思っていた。シャルも同様にそん

な感じだ。

「……まあ、そうピン。だから森に入って奴らに僕の術の実験台になってもらって、ついでに

倒されてもらうんだピン。でも、いつにしようかピン」

「そうですね。どうしましょう」

「……うーん」

 しばらく考え込む間があったが、ブネルーが言い出す。

「今夜がいいだろう。いや、明日の朝早くだな。そろそろこっちの方にもやつらの手が伸びて

くるだろうから、たらたらしているわけにもいかないだろう。だが、そうは言っても急いで、

ミスするわけにもいかないからな」

「そうだな。明日の朝早くですね。隊長」

「O・Kピン」

「でも、それまで何をしてるんですか? まだ朝ですよ」

 シャルの言葉で、そういえばって気のしたピンであった。

「体力など回復して、万全な状態にしておくがいいだろう。いくらピンの術が強くても、万が

一ってこともあるから」

「分かったピン」

 三人はそのまま残り、ブネルーは滝の外へと向かう。

「あ、ブネルーさん。ここには何か武器とかはないのかピン?」

「ない」

「そーですか」

 ピンの問いにあっさりと答え、そのまま去ってしまった。

 ピンはずっと眠っていなかったため、ふたりに関係なく、すぐ横になり、ゆっくりと眠りに

ついた。

「隊長……」

「なんだピン? 眠いのかピン?」

「あの、明日は絶対に勝ちましょう」

「もち……。すー、すぅ」

 彼はやる気だ。シャルにも十分に伝わっていた。

「シャル。せっかく運よく生き残ったんだ。隊長と一緒にやつらをぶっつぶして、皆のかたき

をとろう」

「もちろん!」

 そして、そのまま何もせず、一日を過ごしたのであった。



「くそう。どこに隠れやがったんだ、あの三人!」

 クラークは仲間とともに、捜索をしていた。

 一日中捜していたが、ずっと見つからないこともあり、全員が疲労の限界に達していた。

 そこにひとり、近づく者がいた。

「クラーク殿。もういいでしょう。いませんよ。それに何もずっと食べていないし、このまま

では  」

「もう少しだ。全体を隅から隅まで捜すんだ! そうみんなに伝えてくれ」

「………」

 夜中まで、結局全員、ピンたちの捜索は続いた。

 もうすぐ夜明けだ。クラークはひとり、離れて行動した。

 森の端の方まで来た。

「ん? あんな滝、あったか?」

 ……そして仲間を集めた。



 ドゴーン!

「な、なんだ?」

「なんか、昨日と同じじゃないか?」

 ふたりはとっさに起きて立ち上がる。

「また隊長か?」

「僕はここにいるピン」

「ってことは?」

「そうピン。やつらがとーとーやってきたってことだピン」

「………」

「これからが勝負だピン。皆、準備はいいかピン?」

「おう!」

「やりましょう!」

 三人は爆撃による洞窟の破壊などものともせず、外へと向かった。

「おいこらぁ! くそピン! やっと見つけたぜ! そこにいるんだろう! 分かってんだ。

隠れてないで出てきやがれ! そうすれば命の保障はしてやる!」

 叫ぶクラークの汚らわしい声を嫌でも聞こえてしまうことに、ピンたちはまいった。

「あいつ情けねーピン。分かってるぞって、こっちの姿見えないくせして、もし僕たちがいな

かったら、どうするつもりだったんだろピン。恥ずかしい奴ピン」

「全くですよ、隊長」

 三人は気にせず滝の外へと出る。

 っと、アテリセが気付いた。

「あれ、隊長?」

「なんだピン?」

「そーいえば、あのブネルーっていう猫はどこ行ったんですか?」

「ああ、もう洞窟が壊れかけてたからって他の地に住むって言ってたピン」

「そうですか。じゃあ、ここはめちゃくちゃにしてでも心おきなく戦えるってことですね」

「ま、そういうことピン。アテリセ、シャル。やってやろーピン」

「おう!」

 ドガーン!

 ボガーン!

「うわぁ! なんだ 」

「敵の砲撃だピン!」

 洞窟の外側の岩が崩れ始める。ピンたちは慌てる。

「どうしたぁ! 早く出て来やがれ! このくそ野郎どもが!」

 クラークの声が、時折ピキッとくるピンだったが気にしなかった。

「ピンさん! 何止まってんですか! 早くしないとここもやばいですよ! 急いでその術っ

てうヤツを使ってください!」

「あ、ごめんピン。つい忘れてたピン」

 焦るアテリセに言われ、即座に何かを唱え始めるピンだった。

 それをじっと待つふたりは焦ることで頭が一杯だ。

 バーンッ

「うわ!」

 どんどん飛んでくる。次いで滝の水しぶきが飛ぶ。

「まだですか、隊長! 早く! マジでやばい  」

「黙っててくれピン! 集中できねーピン! 急いでって、そんなこたぁ分かってるピン!」

「すみません……」

 アテリセが焦って仕方のないことは、ピンには分かっていたが、やはりうざかった。

 シャルは外の様子をこっそりと覗く。クラークが中心にたって、ニヤニヤとしながらこちら

を見ている。

(頭にくる奴だ)

 そう思いながら、ピンの術を待った。

 そしてとうとう、ピンの集中力は完全なものとなって、閉じていた瞳を開けた!

 刹那!

「ダイン!」

 叫んだ!

 瞬間、周りにいた人間全てが消えたようにアテリセには見えた。シャルとアテリセとピンだ

けがその場に残り、周囲は急に静まり返った。

「……? どうなったんだ?」

「分からない」

 様々な武器が、さきほど人のいたところに落ちている。……が、人は何人たりとも見当たら

ない。

「隊長。何やったんですか? 何か凄まじいことやったような気がするんですが。あのブネル

ーって猫がやったのと同じ術……ですか?」

「いや、違うピン。自分でも信じられないけど、全員、次元の狭間に送り込んだ……ピン。も

うこの世界に戻ってくることは、……百パーセント無理だピン……」

「え?」

 アテリセとシャルはふたり、驚いてしばらく硬直していたが、ゆっくりと顔を見合わせて笑

顔になる。

「す、すごいじゃないですか! ってことは、僕たちの勝利ってことですよね」

「……まあ、そういうことだ……ピン。なんかあっさりしてたけど」

「いやぁったあぁ! けどほんとにやけにあっさりとした勝利ですね。今までの緊張はどこに

行ったんだって感じで。ま、いっか」

「そうだよ。俺たちの勝ちだ」

 ふたりは喜んで、手をガッチリと合わせる。

 自分で何をやったのか理解できなく黙っていたピン。次第に気持ち悪いほどの笑みが浮かん

でくる。

「もしかして、……僕って凄い、ってヤツ? こんなことができるなんて」

「え? 分かってやったんじゃないんですか?」

「いや。この術って終わってみないと結果が分からないんだピン。だから、ブネルーさんがあ

んなふうに言ってたんだピン」

「じゃ、じゃあ、一歩間違えれば終わり?」

「うん。そーピン」

 ふたりは目を大きく開いて顔を合わせる。

「あ、でもとにかく奴らはぶっ倒したんだしピン。よかったピン」

「ええ、まあそれはそうです……」

「……運良くてよかった」

「あ、それからあいつらに同情なんか、する必要はないピン。僕たちの仲間だって何人も殺さ

れたんだから」

「もちろんそうですよ。いや、しかし、まさか勝てるなんて……。しかもこうもあっさり。な

あ、シャル?」

「うん。俺もそうは思ってなかったから。これで本当の自由なんだね」

 シャルも普段とは違った、いい表情をしている。

「じゃあ、どうしようか」

「とりあえず、こんなところは出ましょう。ガタが来てるし」

「そうだね。それからのことは、また後で考えればいいし」

「でも。……本当しつこいけど、本当に良かった。……本当に」

 アテリセはかなりの喜びを感じているようで、ピンもそんな彼を見て嬉しくなる。

 そして三人は洞窟を抜けて再び森へと戻った。

 先程までは爆音やらなんやらで騒がしかったここも、今では静けさを取り戻している。

 ……というのは、ちょっとした見せかけかもしれない。



 ゴトッ

「……なんだ? どうしたのだ? あれ? みんなは? ピンのくそやろうどもはどこへ行っ

たんだ? 何がなんだかわけがわかんねえぜ」

 岩の下になって蠢いている男がいる。

 ……クラークだ。

 ひとり戸惑う彼の声だけが静かな森を響かせる。

「ったく、どうなっちまったんだよ、一体。みんな消えちまったしよ。……ん? あれはくそ

ピンじゃないのか?」

「!?」

 でかい、汚いクラークの声にピンは気付いた。

 既に森に入っていて、クラークとの距離は十メートルとない。

 三人とクラークとの間には、しばらくの硬直状態が続いた。

「……なんできさまがこんなとこにいるんだ?」

 アテリセの声は、……かなりの怒りがこもっているように、ピンには思えた。

「術があいつを拒んだのかもしんないピン。……なぜかは分からないけど」

「……そうですか」

 クラークはひとり、どうすればいいのか分からずに汗を流しながら辺りを見渡して叫んだ。

「だ、誰か! 誰かいないのか  こ、こいつらを殺せ! 早く!」

 ……しかし、周囲はし~んとして誰も現れる気配は全くない。

 彼は指揮を取っていただけだったので、武器などは全く所有しておらず、ビクビクしている

だけであった。

 アテリセは殺気立ってきた。

「……待ってたといわんばかりのシチュエーションだぜ! 隊長、こいつは僕に任してくださ

い!」

「任せるって、……べつに結構だけどピン」

「そうですか。どれだけこれを夢みてたことだか……。みんなと、……そして、そして……!」
「………」

 そう言うと、アテリセは即座にクラークの懐に向かって走りだした。

(これでやっと……やっとだ!)

「ま、待て! 待ってくれ! 金ならいくらでも……ぐわっ!」

 思い切り吹っ飛ぶ。

 アテリセは顔面を大振りで殴り付けた。そのまま倒れるクラークに乗り掛かり、顔を殴りつ

ける。

「貴様……。自分がしたことが分かってのか? しかもその上、金で、か? ……いいかげん

にしやがれぇ 」

「うぎゃあぁ!」

 そのままクラークは彼に殴りつけられ、大量の血を流していった。

 ピンとシャルはつい立ち止まってしまう。が、すぐに我に返り、ピンは駆けつけてアテリセ

に向かって叫んだ。

「ちょっと、それはけっこうやりすぎだピン! その辺で……。せめて殺すなら一撃で……っ

てわけにもいかないけど……」

 ガンッ、ドゴッ、バチィ

 アテリセには周囲の声が全く届いていない。それほど怒りで我を失っているのだろう。

 ……その中で、ピンとシャルは、……彼を見ていることしかできなかった。





                                     閑話





 驚くミドを尻目に、ピンは上を向いて気分に浸る。

「………」

「驚いた? すっげーだろピン! おめーなんか相手じゃねーんだピン! 分かったかあ、こ

んのくそミド!」

 ……が、ミドは黙ったままピンの言葉を聞き流す。

「……? そこまでおおげさなリアクションしなくてもいいだろピン」

「……うんミ」

 ようやく口を開いたミドだが、それでもいまだに動かない。

「……でも、ミ。それって自分もかなりやばいんだろミ?」

「ま、そうだピン」

「よくもまあ、そんなことやる勇気あったなミ」

「ふっピン。その程度のことをする度胸がなきゃ、この世の中生きていけねーピン」

「ケッ、知ったようなこと言いやがって!」

「黙れピン!」

 ドガッ

 しつこくピンは蹴り続ける。ようやくミドの元に表情が見られるようになり、ピンは少し嬉

しい感じが……

(するわけねーピン!)

 ってな感じだ。

「しかし、凄いなミ。そんな大人数を一発で消し去るなんてミ」

「そりゃ僕もびっくりしたけど。そこがブネルーさんの桁外れの力ってやつピン。もっとも僕

の力がめっちゃくちゃに、……それはもう並じゃない能力だったってこともあっての術だった

からだけど」

「また調子に乗り始めやがったミ。何かってーとこの猫はこうなん  」

「うっせーピン! てめーも他の奴のこと言える身じゃねーだろピン!」

 そのまま再び蹴り倒す。が、ミドはもう馴れたせいか、あまりこたえていない。

「ふっ、もう効かねーミ」

「  じゃあ術しかねーってやつかピン」

「い、いや、それはやめろミ。さすがにやばいミ」

 ミドの決死の阻止により、なんとかピンは行動をやめた。

 そのまま少しの間、時を過ごす。思い出したようにミドの方を振り向く。

「……そういえば、あんときに……」

「あんとき……って、なんだミ?」

「あの、お前が樽の上でなんかやってた時……」

「ああ、酒場のことかミ?」

「そうだピン。あれって結局何やってたんだピン?」

「気付かなかったのかミ?」

「僕、お前がいるってことだけで夢中になって、何やってるのかまでは分からなかったピン。

教えろピン!」

「やミ」

「殺すぞ 」

「はいミ」

 ピンの剣呑のこもった声による脅しに恐ろしく、ミドは即答。

「あれは、たいしたことじゃないけど。商売っていえるかどうか分からないけど、……まあそ

んなとこミ」

 それは聞くと、ピンの表情は崩れかかる。

(ったくこのくそミドは、僕がいろいろ大変な目にあってた時に、そんなことやってたのかピ

ン! 許ねーピン!)

 とりあえずそのまま話させる。

「何をやってたのかって言うと、俺の体を売ってたんだミ」

「へ 」

 さらに怒っているのか笑っているのか、よく分からない奇妙な表情になり、ピンは後ずさっ

た。

(な、何考えてやがんだ  こいつの体を? 買うやつがいるんだろうかピン。一体このくそ

ミドの頭ん中はどうなってんだピン?)

「……で、具体的に……その、求めた奴っていうのは、いたのかピン?」

「ふふふ。大儲けだミ」

「な、何 」

「ってのは嘘だミ~♪」

(こんのくそミド!)

 急に笑ってたミドの顔が変わり、下を向き始める。

「もー全然! 見るだけで金払おうとする奴なんてひとりもいなかったミ」

(まあそうだろうけどピン)

「んで、ピンが来るまで工場が爆発してからなんとか生き残って、それからずっと一睡もしな

いであの街ででかい声出して……てなもんで。今思うと、ほんと俺って馬鹿だよな」

(確かに馬鹿だ)

 ミドはしゅんとしたまま目を瞑る。

 ピンは蹲るミドを呆れながら引っぱたいた。

 パァン

「な、何すんだミ  今度は何も言ってねぇミ!」

「いや、なんとなくそんな気分がしたからピン。カッカッカ!」

「くっ、そりゃねーミ! しかも笑いやがって」

 攻撃されても反抗しないところが、ミドのかわいいところである。

「……けどミ、人間も一文無しの縫いぐるみに少しくらい金よこしたっていいと思うんだけど

ミ」

(ま、こんなやつに金渡す人間なんてそうそういないだろうけどピン。僕もやるつもりないし)
 そう言うとミドは、ピンに長ったらしい話を聞いたり、やられたり、焦ったりのいろいろと

疲労がたまって、少し……いや、かなり間、眠りについた。

 ピンもその真似……というわけでもないが、話し疲れて眠った。



 異常な程澄んでいる空気、広大な草原を緩やかな風が吹く中、半分に開いた両目に真っ青な

空が映る。

「ミミミィ……。眠ってたのかミ? ふあああ」

 目を完全に開けて、ミドは周りの様子を窺った。

 隣  三メートル程離れてはいるが、ピンが逆を向いて眠っている。こちらからでは表情

を見分けることはできない。

「……ミミ。逃げるチャンスだミ。ったく、うざってぇ奴だったミ。……ん? な、な、な、

なんかいやがるミ  気持ち悪いーミ! 上ってきやがるミ 」

 草の根本からは一匹の黒い虫がミドの濃い緑色の毛に向かい、くっつく。そのまま上る。

「うぎゃうぎゃうぎゃあ  気持ち悪いミ! ピン! 頼みたくねーけど、ここは、お前に頼

むしかねーミ! ミ、うぎゃ、助けてくれミ!」

 その騒がしい汚らわしい叫び声により、ピンは起こされた。

「……むに、ピン?」

 目覚めたが、何がどうなっているのか分からず、とりあえず耳を澄ました。

「うぎゃ、助けてミミ」

(うるせえなピン。何者だピン? ったくここのねむいのに。ん?)

 声で思わずはっきりとしてきて、ピンの顔には笑みが浮かぶ。

(ミドがやられてんのかピン? かっかっかピン。助けてやんねーピン。やられろピン)

 じっと寝たふりをしたまま、助けを求めるミドを楽しむピンであった。



 ……しばらくの混戦は続き、ミドは決死の、全身震わせ攻撃によりなんとかその虫を吹っ飛

ばした。

「……はあ、はあ。アブねえミ。危うく死ぬとこだったミ。なんなんだミ、こいつは」

 荒れた息が治まるのを待つ。

 ……とりあえず一息。

「ふう、なんとか助かったミ。しかし、このピンの野郎、ぜッてー起きてるはずなのに、助け

てくれねーのかミ? 気にくわねー野郎だミ! まあ、前からだけど」

 そう言って、ミドは即座に防御体制になった。

(くそミド……。言いたい放題いいやがって。まあ、いいけど)

 少しピキッとくるピンであったが、ここは抑えておいた。

「ん?」

 ミドは目を半分閉じていたが、開ける。

 ピンの攻撃がないと分かるとニヤッとして体勢を崩す。

「よし、寝てやがるミ。っが、俺に対して普段は思いっきり世話(殴ったりしてるだけだけど)
してるくせに、肝心の時に助けねーなんて! 寝てたって無理に起きるのが義理ってもんだミ

!」

(むちゃくちゃ言ってやがるピン……)

「いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも! ってあまり長い付き合いじ

ゃないけどミ……」

 一息おいてミドは空を見上げて口を開いた。

 ……そして、

「いつかぜってー俺様がこんなくそ猫ぶっ殺してやるミー 」

 ほっとして少し疲れが出てきてミドは休んだ。少し間を開けて笑顔になる。

「ふーっ。すっきりしたミ! こんな充実感あふれた日は生まれてから、たぶん初めてだミ!

いや~、いつもやられてる分気持ちいいミ!」

「いいてえことはそれだけかピン? えぇ、ミドクン?」

「え?」

 ゆっくりと振り返ってみると、その方向には目の据わったピンが無表情でこちらを見ている。
 ……ミドは硬直した。

「え? ……へへ、あは、なんのことかミ? あ、……ぇ…………わあああああ 」



 ……そしてその後、ミドがどうなったかと言うと、

 ……言うまでもないだろう。




                               エピローグ





 少し荒々しい風、……だがそれがサッと横を通り過ぎると同時にぼーっとしていたピンは口

を開く。

「じゃあ、行くかピン」

「……その前にあれはねぇと思うんだけどミ」

 言い返したミドだが、全身焦げ、緑の毛が真っ黒になっている。

「少しは悪かったとか思ったりしねーのかミ?」

「自業自得だピン。特にお前のような奴はさっきくらいじゃないと」

「あー、そうですかミ」

 ミドは横目で言うとそのまま上を見る。

 ふっと気付く。

「……行くってどこにミ?」

 ピンはそれを聞くと同時に、焦げたミドを掴み、投げ飛ばした。

「あけぇ 」

 ドンッ

 着地! 響きのある音で、ピンはこれは効いただろと思い、そこを見つめていたら、やはり

的中! 体が少しへこんでいる。

「いたた……。これは痛すぎミ! 何すんだミ!」

「あのなあ、くそミド。なんでさっきからわざわざ長ったらしい奇禍術の話なぁんかしたと思

ってんだ 」

「……忘れたミ。分からん」

 ドガッ

「ミミー!」

 ミドは叫ぶ。

 術の話をする前に、ピンはブネルーのいる所に術を教えてもらいに行くと言い、ミドを脅し、
共に行くことになったところをミドが術のことを聞いてこうなったわけだが、ピンはミドの記

憶力のなさにひとりで驚いた。

 再び、ピンが説明する。

「ったく、ほんっとお前が頭わりいな  どうなってんだ? おめーの中は」

「けへっ」

「けへっじゃねーピン。褒めてねえよ。分かる?」

「いや」

「……もういいピン」

 顔に手を当てながら、ピンは溜め息をついた。

 続ける。

「えーと、それでもう一回言うけど、ブネルーさんのいるアノイシュックっていう、これもま

た辺境の地で、なんかいつでも真っ暗らしいピン。新居みたいピン。ずっと北にあって、かな

り遠いけど、全部話したはずだけど、覚えてねーのかピン?」

「ないミ」

「あ、そう」

 なんかむしゃくしゃしてきたので、とりあえず一発。

 バッキィ

「で!?」

 ミドはしゅんとしながらピンの方を向いて、また思い出すように言う。

「? でもなんで俺までそんなわけのわからねー所まで行かなきゃなんねーんだミ?」

「さっきお前も行くって言ったじゃねーかピン」

「言ってねーミ!」

「脅したら?」

「……言ったかも」

 仕方なく諦め、行くことにしたが、まだ納得しない。

「ちくしょうミ。で、そこはこっからどのくらいの距離だミ?」

「そうだな。お前を追いかけてきたここ一年の距離の、二倍くらい」

「ぶっ! 二倍  ふ、ふざけんじゃねーミ! んなことやってられっか!」

「じゃあ死にたい?」

「いえ」

(なんでこいつはすぐに俺のことを脅迫すんだミ?)

「で、会ってどうすんだミ?」

「それもさっき言っただろうがピン。みっつあるピン」

「みっつ?」

「術を強力なものとして教えてもらうのと、工場の建て直しはどうすればいいのかってのと、

あと、シャルさんをあの街に置き去りにしちまったからそのことも」

「うわ! ひっでーミ」

「確かに悪かったけど……。けど、お前にそこまで言われたかねーピン」

「いや、でも術なんかまた覚えたら、手に負えなくなるミ! わりいことは言わねーからやめ

ろミ」

「いや、やるピン」

「……くそ。……しかし工場工場って、そんなに拘る必要なんてねーと思うんだがミ」

「そういうわけにもいかねーピン。僕にはお前と違って他人との約束は破らねえ主義なんだピ

ン。だから工場のことは必ず実行させなきゃなんねーってやつなんだピン」

「分かったけど……。「お前と違って」ってのは気にくわねーミ」

「実際にそうだろうがピン」

(くっそう。このピンの野郎! 気にいらねえ)

 焦げた毛を気にしながらミドはこんなことを考えていた。

「でもピンさんよ」

「なんだピン?」

「行く理由とかは分かったけど、なんで俺まで? 何か意味があんのかミ?」

「ねーけど来いピン」

(いいかげんな奴だミ)

「あの、ちょっと聞いていいかミ?」

「ん?」

「他人のこと考えたことあるかミ?」

「あるピン。それを言いたいのは僕の方だピン。で、お前は?」

「ねーミ」

「あ、そう」

(ったく何が言いてえんだピン? このくそミドは)

 思いながら、くだらない話をしているのに気付いて、声を上げた。

「あー、もう、うざってーピン。話は全部したから行くぞ!」

「やミ」

「死ぬ?」

「いえ……」

「じゃあ行くぞ!」

(くっそ!)

「あ、そうだミ! ピンさんよ」

「ん? まだ何かあんのかピン?」

「俺……」

「ん?」

「やっぱ逃げるミ!」

「殺す!」

「ミミミー!!」

 ミドはそう言うと全速力で逃げた。……殺されるのを覚悟しながら。

 そうそうピンの話に付き合ってられっか! そんな想いがミドの小さな思考をよぎる。

 不意を突かれたピンだったが、即、追いかけ、周りの草原を騒ぎ立てる。



 美しく、そして静かな大草原。

 そんな中、再びあの声が響くのだ。

「待っちやがれピーン 」

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