2017年2月19日日曜日

だったらやめればいいじゃない



            だったらやめればいいじゃない


「だったらやめればいいじゃない」
 また、聞こえた。
 最近、いつも聞こえてくる。
 なんでだろ。俺はそのたびに思った。
 頭の中で、何度も響いた。
 頭の中で、何度も響いた。
 いつもの、一文、だ。
 甲高い声で、聞こえた。
 同時に巡ってくる心地よさがある。そして反面吐き気を催した。
 いつもの声を聞きながら、俺は目の前にいる巨体の男が掴み掛かってくるのを、ただ、待った。
「ぶち殺してやる!」
 巨体の男は大声で叫ぶと、俺の両肩を強烈な力で掴み、大きな頭を勢いよく俺の顔面へと突き出した。
 ぐしゃ……
 妙に柔らかく、生暖かい音がした。同時に俺は大きくのけ反って、地についた。
「……なんだろ」
 俺はそう声にした。
 顔中が熱い。ものすごく熱い。口の上から、何かが流れてきているのが分かった。
「あ、鼻が折れたんだ」
 分かったことを、また声にした。
 巨体男は、さっきまでの勢いはどうしたのか、俺の顔を見て、なぜか分からないが顔を引きつらせている。
 俺は、右手で鼻を触ってみた。
 鼻という感触を感じることができなかった。
 平べったく感じる。熱い。どくどくと何かが流れている。
 俺は、顔一帯を右手で摩ってみた。
「……ない」
 鼻がなかった。代わりに微妙な凹凸を感じた。鼻が大きく陥没したんだろう。
 巨体男が、一歩後ずさった。
 俺はそれを追いかけるように、ゆっくりと立ち上がった。
「ちょっと待てよ」
 鼻の熱さが増してくる。
 巨体男が後ろを向いて逃げようとした。俺はその巨体男に向かって、左手に持っていた鉄パイプを投げた。
 がんという音が鳴って、巨体男が前のめりに倒れた。
「鼻が潰れたんだ。なんとかしてくれよ」
 俺はそう言って、うつ伏せになってうめいている巨体男の背中に乗って、顔を掴んだ。
「いででででで!」
 巨体男が叫んだ。
 俺はそれに合わせるように顔を掴んだまま後ろに思いきり引いた。
 巨体男が蝦ぞりになって、首が俺の方を向く。
「わわわわ悪かった! いでででで。もういい、もう払わなくていいから!」
 喚く巨体男の顔を眺めた。ださかった。
 俺は巨体男の顔から手を放して、思い切り上から蹴った。 巨体男がまた喚いた。なんだ、こいつ。
 俺は巨体男を蹴ることに満足すると、落ちている鉄パイプを手に取って、その場から去ることにした。
 後ろから、巨体男が何やら叫んでいる。
 俺は気にしないで歩き続けた。
 そしてまた、あの声を聞いた。
「だったら、やめればいいじゃない」

 そもそも、俺は一体、なぜこんな人間になってしまったのだろうか。
 時々、考えることがある。
「ねぇ、聞いてるの?」
 か な こ
 加奈子が、隣から聞いてきた。
 俺は加奈子を抱き寄せて唇を塞ぐと、一旦、彼女を放して起き上がった。
「聞いてなかった」
 俺は加奈子の問いすらも聞いていなかった。
 ただ単に、加奈子がそんなことを聞いたような気がしたから、適当にそう答えた。
 ベッドの上の全裸の加奈子が、毛布の中に潜り込む。
 俺はベッドから降りると、欠伸をした。
「なんで聞いてないのよ。ねぇ、どうして鼻に包帯巻いてるの?」
「怪我したみたいだから」
 俺は言った。別に、そんなことはどうでもいいことだった。
 鼻は、あまり必要ではない。酸素は口から吸える。
 俺は床に落ちている黄ばんだ大きめのシャツを手に取った。ゆっくりと着替えた。
 加奈子が俺の方を見て、何かおかしな顔をした。ちょっと目が霞んで、あまりどんな顔をしているのか分からない。
 俺は暗くなっているはずの外の景色が眺めたくなって、部屋の窓のカーテンを開けた。
 夜景が、汚く見えた。
「ちょっと、開けないでよ。外から丸見えよ」
 ここは二階の部屋だ。外からは電気のついているこの部屋が、はっきり見えてしまうだろう。
 俺はカーテンを全開にした。
 加奈子が嫌そうな顔をして、言った。
「もう……! ねぇ、それより、いつまでヤってるつもりなの?」
「知らない」
 俺はシャツのボタンを締めて、ベッドの上へと戻った。
 少し脅えた表情の加奈子の胸を両手で掴んで、俺は苦笑した。
「……いや、たぶん、俺はやめたいんだろ」
「なによ、それ」
 俺は加奈子の口の中に舌を入れた。加奈子はそれを遮って、もう一度聞いた。
「もう、二十後半でしょ? どうすんの? いつまで腐ってるつもり 」
 加奈子の言った言葉に、俺は別になんら感じたことはなく、ただ言った。
「俺は、やめたいんだ。本当は」
「だったらやめればいいじゃない」
「それ、何回も聞いてる」
 加奈子のいつもの言葉に俺は笑って、押し倒した。
 それからからだを絡ませる。
 鼻を潰された時とは違った、全身に感じる熱さ。
 最近は飽きてきた。
「俺は、やめたいんだ」
 からだの熱さに熱を入れるみたいに、俺はそう言った。
 加奈子の息が激しくなっていく。俺は息をさせないように、また唇を塞いだ。
「でも薬がやめさせてくれないんだ」
「……お願いだから、もうやめてよ。からだ、壊しちゃうわよ」
 加奈子の顔が、遠くに見えた。

 朝、俺はいつものようにあそこに向かった。
 寒かった。外には人の気配が全くない。
 シャツの胸ポケットの中に入っているカプセルを取り出して、俺はそれをかみ砕いた。
 喉の奥に通して、胸の奥にやんわりとした感触を覚えて、俺は歩いた。
 全身が、和やかになった。
 名前、なんて言っただろう。
 オヤジのくれたこのカプセルを、俺は、とりあえず気持ちのよくなるただの薬として、いつも服用した。
 最近、腕が痒い。うずうずしている。
「だったらやめればいいじゃない」
 また聞こえた。
 俺は頭の中でおかしな妄想を引き立てて、小屋の中に入った。
「……あんたか。もう来ないでくれよ。ツケはなしにしてやるから」
 中にいたオヤジが、俺を見るなりそう言った。
 俺は手を挙げて、瞬きを何度かして、オヤジの近くに寄った。
「もう少しだけ、くれよ」
「もう勘弁してくれ。あんただけじゃないんだよ、ツケが溜まってんの。これ以上は無理だ」
 オヤジが、俺を毛嫌った。
 俺はオヤジを殴った。
 オヤジの鼻を、俺の鼻みたいになるように殴った。
「いてぇ」
 オヤジが何か叫んだが、俺は気にしなかった。
 部屋の奥のテーブルの上に、たくさんカプセルの入った袋が置いてあった。
 俺はそれを取って、小屋の出口へと向かった。
「待て、タケシ。お前、それ全部取ったら、他のヤツらに狙われるぞ」
 オヤジが言った。
 俺はオヤジの言った言葉の意味が理解できなかった。
「これは全部、俺がもらうよ」
 俺は小屋を出た。
 寒さが増していた。
 その寒さを、俺のからだは喜んでいる。
 手に持っている袋の中から、カプセルを何粒か一気に掴んで、俺は口の中に含んだ。
 ぼりぼりと音を立てて、飲み込むときには意識して飲み込む。そうするのが一番気分がよかった。
 また、からだがほんわかしてきて、気持ちがよくなってくる。
 俺は歩いた。
 当てなんかない。家はない。ホテルに一室、加奈子と泊まる場所があるが、金は払っていない。そのうち、追い出されるかもしれない。
 そうしたら、何をするんだろ。
 俺は歩いた。加奈子は仕事に行っているだろう。ホテルに帰っても、じっとしていられない。
 俺は歩いた。ずっと歩いた。いつもみたいに歩いた。
「おい、おっさん」
 俺は後ろから、誰かに声を掛けられた。
 なんだと思いながら振り返って、俺は口にした。
「俺はまだ二十七だよ。おっさんじゃない」
「どっから見たっておっさんだろ、あんた。顔が燻ってるぞ。きたねえな。死人みてえな顔しやがって」
 そいつは、若い男だった。ガキだな。
 俺はガキが言ったことは気にせず、歩いた。
「おら、ちょっと待てよ。ぶつかっといて謝りもしねぇのか、おっさん」
 ぶつかったのか。俺は気づかずに歩いていたみたいだ。
 俺はガキの顔を覗きこんで、身長が俺より幾らか高いことに気づいた。
 俺はガキの右手を掴んだ。
「おい、何すんだよ、おっさん。殺すぞ」
「うるさいよガキ」
 俺は言った。それから、ガキの右手を思い切りねじった。
 ガキが喚いた。
 いつもそうだ。俺が何か手をだすと、誰もがみんな喚く。ださい、ほんとださい。馬鹿みたいだ。かっこわるいよ、お前ら。
 俺はガキの右手を更にねじって、甲高く鳴るまで待った。
「おっさん、ふざけんな」
 ガキが涙を浮かべながら叫んだ。必死に俺の手を放そうとする。俺は腕に力を入れた。ガキの力は、俺には弱かった。
 そのうち、こきっという音が、ガキの腕の関節から聞こえた。やっと折れたか。しぶといな。
「俺はまだ二十五なんだよ、ガキ」
 俺はそう言って、ガキを蹴りとばすと、また歩いた。ところどころに人がいて、俺たちを見ていたが、咎めてくる人はいなかった。みんな、恐怖に顔をひきつらせているのかな。俺は再び、カプセルを掴んでかみ砕いた。
 やっぱりホテルに帰ることにした。建物の前まで来ると、俺はしばらく立ち尽くした。
 眠かった。俺はなんだか頭がぼやけてきた。
 また、声が響いた。
 なんでいつも俺の頭の中に、加奈子の声が聞こえてくるんだろ。
 ここんところ、毎日聞こえてくる。決まってあの言葉。
 俺は、加奈子のことを思い出しながら路地裏まで歩いて、そのまま地面に眠った。

 目を覚ましたのは、夜だった。視界が暗かった。路地裏だった。
 俺には毛布が掛けられていた。
 頭が、痛かった。目の前に人がいる。
「あんただれ」
 俺は聞いた。目の前の人が、俺に手を差し伸べた。
「こんなところで眠ってたら、風邪ひきますよ」
 女だった。それも若かった。
 俺は女の手を握ると、毛布を引きはがして頭を回転させた。痛かった。
「毛布、あげますね」
 女はそう言うと、ゆっくりと後ろを振り返って歩き始めた。
 俺は痛む頭を我慢しながら、女を追いかけた。
「え?」
 女が言った。俺は気分が悪かった。
 俺は女の手を掴んで、再び路地裏へと駆け込んだ。
 俺は女を押し倒した。
 女が何やら叫んだ。俺は女の服を裂いた。女が助けを求めた。
 俺は服を全部脱いだ。
 俺は女を組み敷いて、ただ汗を流した。
 女が泣いた。泣いていた。
「なんで泣くんだよ」
 俺はそう言った。女がまた泣いた。激しく俺は女を犯した。久しぶりに犯した。
 何日ぶりだったろ。最近は、回数が減っていたことに気づく。
 女が俺の下で泣き叫ぶのを聞き楽しんでいると、ふいに俺の頭の中に声が聞こえた。
「何やってんだろ、俺」
 その声が俺の頭の中で漂った。俺の声だった。
 そうだ。そういえば、俺って、なんでこんなことやってんだろ。
 女が失神した。俺は行為を続けた。
 同時に、加奈子の声が聞こえた。
「だったらやめればいいじゃない」
 そういえば、俺ってなんでそんなこと言われたんだろ。
 なんだかからだが浮いてるような感じになってるような気がした。
「俺だって、やめたいんだ!」
 昔、大声で加奈子に言った。それで、俺は大声で泣いた。自分が嫌だった時だ。なぜか昔のことが蘇ってきた。
 俺はひととおり満足して気を失った女をその場に残して、裸のままホテルの中へと入った。部屋に入った。
 最初の頃は、加奈子に、大声で叫んで自分の思いを伝えたかった。やめたいって。
 最近は、もうあまり気にならなくなった。薬使ってると、嫌なこと忘れられるし。どうでもいいし。
 だけど、どこかから、俺の頭の中に俺の声が響いてきた。
「俺って、何やってるんだろ。薬、使っちゃいけないのに」
 その度に、加奈子の声が聞こえた。
「だったら、やめればいいじゃない」
 俺はベッドの上に乗った。
 いつもは、女とした後は気分がいい。薬使ってヤったら、最高だ。
 俺は、さっきの女のことを思い出した。あんまり、よくなかった。いつもはいいのに。なんでだろ。
 俺はよく分からなくなっていた。

 加奈子が仕事から帰ってきて、俺を起こした。
 まだ夜だ。夜中。ベッドに寝ていたのを、起こされた。
「タケシ。ちょっとなんで裸なの?」
 加奈子がうつぶせに寝ていた俺の背中を叩いた。
「女、犯してきたから」
 俺は言った。加奈子が何か呟いて、ベッドの上に乗った。
 加奈子が、俺の顔を見て、驚いた。
「タケシ。……ちょっと大丈夫なの? すごい顔よ?」
 加奈子の言葉を聞いて、俺は何か苛立った。
「顔が、すごいのか」
 俺は言って、加奈子をベッドから放り出した。それから毛布を深く被る。
 気分が悪かった。だるかった。最近、いつもだるいけど、なんだか悪化してるようだった。
「あなた、まだ薬ヤってるの? やめてよ、お願いだから」
「俺だってやめたいよ」
「だったら、やめてよ!」
 加奈子が大声を出した。俺は加奈子の顔を見た。
 加奈子が毛布の中に視線を釘付けにした。俺が持ってきたカプセルの入った袋に気づいた。
 加奈子がそれに手を伸ばす。
 俺は加奈子を殴った。カプセルの袋をしっかりと握る。
「あなた、いつか死ぬわよ」
 加奈子がそう言って、部屋から出ていった。
 俺は加奈子の後ろ姿を見ながら袋の中に手を入れて、全部カプセルを取ると、一気に口の中に放りこんだ。
「だったらやめればいいじゃない」
 また、加奈子の声が聞こえた。
 静かになった部屋で、俺はしばらくぼーとしていた。
 立ち上がって、裸のまま窓のそばに寄る。閉まっているカーテンを開いた。
 外にいる人間は、俺を見ているかもしれない。
「加奈子は、なんであんなこと言うんだろ」
 いつも聞こえてくるあの声に、俺はちょっと頭を悩まされた。
 窓を開けた。外からの風が、急に寒くなってきたような気がした。
 腕が、やっぱり痒い。顔中、熱い。
「だったらやめればいいじゃない」
 また聞こえた。なんなんだよ、加奈子。
 しばらく立ち尽くしていると、吐き気が込み上げてきた。こういう時は薬が一番だ。俺は袋を覗いた。カプセルがない。そういえば、さっき全部使ったんだっけ。
 俺は部屋の中を探した。ない。
 俺は天井を見上げた。天使がいる。
 天使は口を開けた。そこから、カプセルがいっぱい降ってくる。俺はそれを手に取るために必死に部屋中を駆け回って、全部手に取った。
 加奈子の顔が、脳裏に蘇った。
 またあの言葉を口にした。
 なんだか、意識があやふやになった。加奈子の言葉を思い出した。
 そうだ。初めて言われたのは、俺が初めて加奈子に泣き叫んだ時だ。
「加奈子、やめたいんだ、やめたいんだよ。このままだと、俺、絶対おかしくなっちゃうよ! 人に迷惑をかけちゃうかもしれないよ!」
「だったら、やめればいいじゃない、薬なんて」
 加奈子の乾いた声が思い出された。俺は天使を見上げた。薬が、今度は血に変わっていた。血が俺の頭から床に落ちる。
 からだ中、痒かった。なんだか、苦しい。
 ドン
 部屋のドアの開く音が聞こえた。俺はそっちを向く。
「おらおら、見つけたぜ!」
 どこかで見た男だった。俺はそいつを見た。
 次第にその男は巨大化して、熊になっていくのが分かった。
「おれの女に手を出すなんて、つくづくバカな男だ。しかも、薬、全部奪いやがって! お前犯したの、やっぱりこいつなんだろ?」
 熊が俺の方に指をさしながら、後ろを向いた。そういえば熊なんて、初めてお目にかかった。でも、危険だよな。
 熊から視線をずらして、外からもうひとつ、何か生物が入ってくるのが見えた。
 一瞬、女に見えたが、巨大な鳥だった。
 鳥が喋った。
「ええ……」
 巨大な熊の方を見ていると、なんだか俺の胸の当たりがごぼっとした。
 口の中から何かが飛び出した。血だった。
「ぶち殺してやる! こないだのツケだ!」
 熊が叫んで、爪から何かを飛ばしてきた。小さな弾っころだった。ゆっくりに見えた。俺の目の前まで来て、一瞬、変な気分になった。
 目の前が、真っ暗になった。
 それと同時に、吐き気やだるさが収まった。
 天使が降って来た。カプセルがたくさんたくさん落ちて来る。俺は空を飛んだ。雲が俺の足元にやってきて、俺は世界中を飛び回った。
 いろんなヤツを見た。男や女がいた。熊がいっぱいいる。鳥は少し。なんで熊は多いんだろ。熊ばっかりだ。
 熊が空にいる俺の方に向かって笑顔で手を振った。するとその後、たくさんの熊の中から一匹の狐がやってきた。
 狐は空を飛んできて、俺の右手を握ると、優しく笑った。
 なんだか気持ちよくて、俺は狐を優しく抱き締めた。
 狐が笑った。
 俺は、なんだか気持ちよかった。
「俺は、やめたいんだ!」
 昔の俺の声が聞こえた。かわいい声だった。
 するとなんだか、空がだんだん消えていった。狐が悲しそうに去って行く。そういえば、この狐、どこかで見たような気がする。俺の足元の雲も、なくなっていく。天使が、薄れていく。ふと、足元を見てみると、俺の足がだんだん下から透明になっていく。
 最初にいたあの熊はどうしたんだろ。鳥とは知り合いだったみたいだ。俺はなんで熊に会ったんだろ。熊って、山にいるんじゃないのかな。
 加奈子はどこに行ったんだ? 熊に襲われてるかも。鳥には襲われないだろな。鳥になんか、負けないよ、加奈子は。
 でも、加奈子だったら、べつに熊に襲われてもいいや。俺は関係ないんだし。熊は強いよな。戦ったことないけど、熊ってのは、TVの中では怖かったんだ。
 俺は自分が紙切れになっていくような気分になった。代わりに気持ちよさが増して来るのを感じたが、意識もなんだか薄れていることに気づいたんだ。
 薬は、いつから使い始めたんだろ。薬は熊を倒してくれるって、小学校の先生は言ってたな。
 狐が、目の前に来た。
 そして狐は消えた。
 意識が、なんだか消えそうだ。消えそうだったけど、最後の声ははっきりと聞こえた。
「だったら  」
 最後の声は、はっきり聞こえた。
「だったらやめればいいじゃない」

                                 FIN.

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